世間は意外と狭いもの ~ネットワーク科学~

あなたの友人が、同時にアメリカ大統領の友人であることはほとんどあり得ません。 しかし、あなたの友人の友人の友人が、アメリカ大統領の友人の友人の友人である確率は、実は驚くほど高いのです。

このような人間同士の交友関係はもとより、生態系の補食関係・電力供給網・インターネット等、世界の複雑な仕組みをネットワークという観点から明らかにするのが、本テーマの目的です。その理解の鍵となるのが、多様なネットワークに共通する性質です。例えばスケールフリー性という性質は、ネットワーク内の極少数のノード(例えば一人の人間)が膨大なリンクを持つ(多数の人と友人関係にある)一方で、ほとんどのノードはごくわずかなリンクしか持っていないという性質です。また、スモールワールド性という性質も多くのネットワークがもっています。この性質をもつネットワーク内では、あるノード(自分)から他のほぼすべてのノード(例えば大統領)まで、極めて少数のステップで到達することができます。すなわち、あなたと大統領とは友人6人分程度の隔たりしかないわけです!

自然界に遍在する多くの複雑系にはユークリッド距離が定義されていますが、ユークリッド距離が定義されないトポロジカルな意味で複雑なネットワークにも普遍的性質が存在することが、最近の精力的な研究により明らかにされています。その一方で、形成メカニズムの全く異なる一連のネットワーク群がどうしてそのような共通性質を示すのか、その起源が解明されているとは言えません。そこで本研究室では、複雑ネットワークに見られる普遍的性質の起源を理論的に明らかにし、トポロジカルに乱れた系の隠れた対称性を見つけることを目指しています。

尺度を変えても世界は同じ ~フラクタル系の物理学~

結晶の中の原子の配列は規則的で、その構造を少しだけずらしたり回転させても元の構造とぴったりと重なります。このことを少し難しく言うと、系に並進対称性や回転対称性があると言います。対称性とは、その系がもつ美しさだと言っても良いかもしれません。しかし、私たちの身の周りには、そのような単純な対称性が見られないものも多々あります。雲の形や木の形、山の起伏、海岸線形状などを考えれば、むしろそのような複雑構造の方が多く見られます。このような系には何の対称性もないのでしょうか?実は、これらの構造には、尺度(スケール)を変えても不変であるという対称性があることが解っています。

もちろん、雲の一部分を拡大しても元の雲の形とぴったりと一致することはありません。ですが、拡大した構造と元の構造とは複雑さの入り組み方がそっくりなのです。このようなスケール変換に対する対称性(自己相似性)を持つ構造をフラクタル構造といいます。フラクタル性は、山の起伏や海岸線形状のようなマクロな系だけでなく、もっとミクロな世界でも、量子力学が支配する系でも、さらにはユークリッド距離が定義されていないネットワーク系でも発現します。私たちの研究室では、何故このような対称性を持つ構造が至る所に見られるのか、フラクタル性を持つ系とそうではない系とでは物理現象がどのように違ってくるのかを研究しています。

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